コラム

操られる岸田「決断不能」政権の危うさ

2022年08月24日(水)13時42分

旧統一教会との関係を断ち切るための内閣改造のはずが Issei Kato- REUTERS

<政権発足以降、国葬以外は何ひとつ決断できず、内閣改造ではむしろ旧統一教会依存をさらした岸田内閣。しばらく選挙もなく国会では圧倒的な勢力をもつこの政権が、既得権益の意のままに弄ばれるのは避けなければならない>

8月10日、岸田改造内閣が発足した。岸田政権になってからの内閣改造は初めてで、安倍首相が射殺されたのち、どのように岸田色を出していくのかという点に注目が集まった。特に、政治と旧統一協会との関係が広く関心を集める中で、岸田政権および自民党がこの問題についてどう考えているかを見極めるうえでも、新内閣および自民党役員の顔ぶれは注目に値した。しかし内閣改造は、「統一協会系」議員の排除に失敗するなど、疑問の残る結果となり、岸田内閣の支持率は下降を続けている。

内閣改造で排除できなかった「統一協会系」議員

旧統一協会と自民党議員との深い関係が連日報道され、内閣支持率および自民党の政党支持率が下降線を辿る中で、内閣改造は行われた。この影響が最も強く出た人事は、岸信夫防衛相と二之湯智国家公安委員長の交代だろう。両者ともに、岸田内閣の閣僚として旧統一協会との関係を象徴的に取り上げられていた人物だからだ。

しかしながら新たに政調会長になった萩生田光一議員もまた、参院選において旧統一協会に露骨に票の支援を求めていたことが報じられている。本格的な記事が出たのは内閣改造後だが、萩生田議員と旧統一協会との深い関係については、それ以前から指摘されており、統一協会外しの人事であるならば、詰めが甘いとしかいえない。案の定、岸田政権の支持率は8月になって下落しており、内閣改造後としては極めて異例だ。この改造が政権を浮揚させるどころか、かえって批判を集めてしまったことがうかがえる。

優先された派閥力学

なぜこのような結果を招いてしまったのだろうか。連日の報道から、萩生田議員を要職につけた場合、旧統一協会との関係がすぐに暴露され、強い批判が巻き起こるということは容易に予測できたはずだ。それにも関わらず、岸田首相はそれを行ってしまった。

考えられるのは、旧統一協会に関係しない有力議員が自民党にはほとんどいないということだ。週刊文春によれば、そもそも当の岸田首相自身の後援会長が旧統一協会関係者だったというのだ。

しかしその中でも、萩生田議員は、旧統一協会とより強い関わりを持っている議員だ。重要なのは、萩生田議員が所属している派閥だろう。彼は、派閥の領袖が死去してもなお自民党最大の勢力である安倍派出身だ。やはり旧統一協会との関わりがあった前任者の高市早苗議員は安倍元首相と近かった人物であり、岸田首相はその最大勢力を完全に排除することはできなかったのだ。安倍派は自民党の中でも旧統一協会と関係が深い議員が多かったといわれているにもかかわらず。

プロフィール

藤崎剛人

(ふじさき・まさと) 批評家、非常勤講師
1982年生まれ。東京大学総合文化研究科単位取得退学。専門は思想史。特にカール・シュミットの公法思想を研究。『ユリイカ』、『現代思想』などにも寄稿。訳書にラインハルト・メーリング『カール・シュミット入門 ―― 思想・状況・人物像』(書肆心水、2022年)など。
X ID:@hokusyu1982

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