コラム

日本の本当のPR役は嵐でもSMAPでもない

2011年10月11日(火)11時40分

今週のコラムニスト:李小牧

〔10月5日号掲載〕

 新宿・歌舞伎町のわが湖南菜館をよく利用してくれる友人の会社が最近、観光庁の中国人観光客誘致事業の入札に参加した。たった15分のプレゼンテーションと10分の質疑応答で8億円の予算の行き先は決まる。残念ながら友人の会社はダメ。落札したのは大手広告代理店だった。

 友人によれば、1つのポイントは「現地に事務所があるかどうか」だったらしい。友人の会社は小さいので、優秀な中国人スタッフはいても現地に社員を駐在させる余裕はない。確かに落札した大手広告代理店はたくさんの現地事務所を抱えているが、私はかねてから観光庁のやり方に疑問を持ってきた。

 大手代理店を通じて中国のテレビや新聞、雑誌にいくら広告を出したところで、中国人の心には響かない。スポンサー料を払って日本を紹介する旅行番組を作っても同じ。広告やパンフレットをまじめに見る中国人は少ない。中国人が重視するのは今でも口コミだ。

 観光庁は中国人記者を日本に呼び、原稿も書いてもらうつもりらしい。ただ、今もコネが幅を利かせる中国で、有力な人脈なしに著名記者や人気キャスターを日本に呼ぶのは簡単ではない。

 要するに、中国から観光客を呼ぶにはカネでなく人と人の関係が大事なのだが、観光庁はそこをあまり理解していない。このコラムでフランス人記者のレジス・アルノー氏が指摘した「嵐が観光地でニャーと鳴くだけのPR映像」がその証拠だ。中国人にとってアイドルは子供が見るもの。いくら予算を使って日本のトップアイドルを起用しても、大半の中国人はバカにされたように感じるだけだろう。

■「宝物」は足元に眠っている

 たくさんの中国人観光客を呼ぶために嵐やSMAPは必要ない。サクラや富士山を宣伝する巨大な看板を北京や上海に作る必要もない。きれいな旅行パンフレットも要らない。「宝物」は自分たちの足元に眠っている。日本に住む在日中国人や、中国に詳しい普通の日本人だ。

 中国人観光客に見てもらうべきなのは、「富士山」「温泉」「秋葉原」といった表面的な観光地だけではない。例えば誰でも好きなだけ酔っぱらえて、ラブホテルが100軒もある歌舞伎町は日本の自由と民主主義の良さを象徴する場所だ。東北の被災地の現実を見てもらうのもいいかもしれない。弾丸ツアーではなく、説得力をもってリアルな日本人の生活を紹介できるのは、在日中国人のほかにはいない。双方の文化をよく知る中国残留孤児たちに協力してもらうのもいいだろう。

 去年の上海万博で日本産業館は大盛況だったが、そこで高級日本料亭の支配人を務めたフードビジネス・プロデューサーの柿澤一氏は中国の新人類「80後」をスタッフとして使いこなしながら、「ベーコンおにぎり」のように、これまでの枠を超えた中国人の好みに合う日本料理を提供した。彼のような中国人ニーズを知る日本人の知恵も借りたらいい。

 もちろん口コミには限界があるから、情報発信には今や口コミを超える影響力を持つ中国版ツイッター新浪微博を利用する。日本の北京大使館の微博は記事が少なく内容もいまひとつだが、これを反面教師にして「モノではなく人間を売る」つもりでどんどん発信してもらえば、日本への関心は自然に高まるに違いない。

 有力なメディア関係者とのコネは私に任せてもらいたい。知識人に人気の新聞「南方都市報」に連載もしているし、香港フェニックステレビの人気討論番組『鏘鏘三人行』のキャスターも知り合いだ。実は日本に関する番組をやりたいという申し出も受けている。旅行番組で取り上げてもらうより、一般の討論番組やニュース番組でリアルな日本と日本人を知ってもらうほうが、長い目で見て中国人観光客を引き付けるはずだ。

 愛する日本のためだ。今回に限り、バックチャージはなしでいい(笑)。

プロフィール

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・李小牧(歌舞伎町案内人)
・クォン・ヨンソク(一橋大学准教授)
・レジス・アルノー(仏フィガロ紙記者)
・ジャレド・ブレイタマン(デザイン人類学者)
・アズビー・ブラウン(金沢工業大学准教授)
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