コラム

「ストレステスト」騒動で高まる政権のストレス

2011年07月08日(金)12時28分

 原発の再稼働をめぐって菅首相の発言が二転三転し、振り回された海江田経産相が国会で辞意を表明する異例の事態に発展した。ここに至る首相の支離滅裂な言動をみると、彼がさじを投げる気持ちもわかる。

 福島第一原発事故のあと、運転中の原発の安全性について不安が高まり、特に東海地震の震源に近い中部電力の浜岡原発を止めるべきだという意見が社民党などから出ていた。これに対して首相は最初は無視していたが、5月6日になって突然、記者会見で浜岡原発の停止を要請した。これが迷走の始まりだった。

 停止を要請した首相をメディアは賞賛し、他の地域でも停止を求める運動が強まった。これに対して、当初は首相も「浜岡は例外」との態度を打ち出していたが、停止要請は法的な根拠なしに行なわれたため、どういう基準で止めたのかがはっきりせず、地元を説得することができない。

 こうした中で定期検査を終えて再稼働する予定だった佐賀県の玄海原発について、原子力安全・保安院は6月に「安全宣言」を出し、首相は再稼働すべきとの方針だった。6月28日には海江田氏が佐賀県を訪問し、再稼働を説得した。ところが7月6日になって首相が突然「ストレステストをやる」と言い始め、そのテストが終わるまで再稼働させない方針を打ち出したのだ。はしごを外された海江田氏が怒るのは当然だろう。

 そもそもストレステストとは、何だろうか。欧州議会の発表によれば、これはEU(欧州連合)の行なう原発の安全性チェックで、域内の143基すべてを対象にして、地震、津波、竜巻、飛行機墜落、テロ攻撃などを想定して原子炉の安全性を電力会社にシミュレーションさせて各国の規制当局がチェックし、現地調査によって安全性を確認するものだ。

 このようなシミュレーションは、最新の原発ではソフトウェアでできるが、古い原発にはシミュレーターはおろかデータもそろっていないので、電力会社が個別に調査して報告する。2012年4月までに終わる予定で、その結果リスクが明らかになった原発は停止することもあるが、基本的には「念のため」の参考資料なので法的拘束力はない。

 注目されるのは、この欧州議会の決定が震災直後の3月17日に行なわれたことだ。自民党の河野太郎氏は、5月6日に「浜岡だけを恣意的に止めるのではなく全国の原発でストレステストをすべきだ」と提案していた。遅くとも5月から簡単なストレステストを始めていれば、再稼働に間に合った可能性もある。

 ところが今ごろから思いつきで始めると、テストの基準も決まっていないので、夏場の電力消費のピークには間に合わない。欧州では1年かけてストレステストを行なうが、運転は続ける。これに対して日本では、首相が運転再開の条件にしてしまったので、ピーク時に再稼働できないばかりか、最悪の場合には来年の5月にはすべての原発が止まってしまう。

 こうみると、原発の問題が混乱した最大の原因は、初期に系統的な安全対策をとらず、思いつきで浜岡原発の停止を求めた首相のスタンドプレーにある。法的には、原発に欠陥が見つかった場合などには経産相が停止を命じることができるが、法的な欠陥がないのに首相が「現地の不安解消」を理由にして運転を停止させたため、各地の地元が不安を訴えると抑えようがなくなってしまったのだ。

 原発の安全性は厳格な安全基準にもとづいて審査され、欧州のストレステストのような項目はその基準に含まれている。法的には定期検査が終われば経産相が運転開始を命じることができるが、その手を首相が縛ってしまった。法を無視して暴走し、原子力行政を破綻させた彼の罪は大きい。打開策は、首相が辞任して新政権が再稼働を進めるしかないだろう。

プロフィール

池田信夫

経済学者。1953年、京都府生まれ。東京大学経済学部を卒業後、NHK入社。93年に退職後、国際大学GLOCOM教授、経済産業研究所上席研究員などを経て、現在は株式会社アゴラ研究所所長。学術博士(慶應義塾大学)。著書に『アベノミクスの幻想』、『「空気」の構造』、共著に『なぜ世界は不況に陥ったのか』など。池田信夫blogのほか、言論サイトアゴラを主宰。

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