コラム

iPadで拡大する日米の情報格差

2010年01月28日(木)16時40分

 話題を呼んでいたアップルのタブレット端末iPadが27日、発表された。ほぼ予想どおりで、iPhoneを4倍に拡大したような感じだ。ソフトウェアもiPhone用アプリケーションがすべて動くので、日本でもソフトバンクが対応するだろう。問題は端末ではなく、iPadで読める本が日本にほとんどないことだ。

 アメリカの出版社は、アマゾンの電子端末「キンドル」による配信を積極的に進めており、昨年はAmazon.comでの電子書籍の販売部数が紙の書籍を上回った。iPadにもNYタイムズ、マグロウヒル、サイモン&シュースターなど大手の新聞・出版社がコンテンツを提供する予定だ。ところが日本では、キンドルも端末(英語版)は発売されたが、本は(一部のマンガを除いて)読めない。アマゾンは日本の出版社と交渉しているといわれるが、難航しているようだ。

 iPadについても同様の交渉が行なわれているが、いつ話がまとまるかわからないという。「日本でやろうとすると、取次(出版の卸売業者)を通して出版社のコンセンサスを得なければならない。しかし電子出版が普及すると取次は必要なくなるので、彼らがそういう話を進めるはずがない」と、ある関係者は嘆いていた。かといって出版社と個別に話を進めようとすると、取次から圧力がかかるという。

 日本の出版業界は委託販売という特殊なシステムになっているため、取次が流通を支配している。取次にさからって取り扱い部数が減らされると、中小出版社は苦境に陥るため、独自には動けないのだ。大手出版社は21社でアマゾンに対抗するグループを結成するが、彼らが配信システムをもっているわけではなく、既存の本との「共食い」を恐れて大胆な戦略は打ち出せない。このままでは、日米の情報格差は致命的に開いてしまう。

 インターネットは、既存のアナログ的ビジネスモデルを破壊する。音楽業界は「著作権」を盾にとってインターネットを拒否した結果、業界の外からやってきたアップルにネット配信のビジネスを奪われてしまった。アメリカの出版社はその教訓に学んで、電子出版をチャンスとして生かそうとしているが、日本の出版業界は音楽業界の失敗を繰り返そうとしているようだ。愚者は経験に学び、賢者は歴史に学ぶということわざがあるが、経験にも学ぶことのできない者を何と呼べばいいのだろうか。

プロフィール

池田信夫

経済学者。1953年、京都府生まれ。東京大学経済学部を卒業後、NHK入社。93年に退職後、国際大学GLOCOM教授、経済産業研究所上席研究員などを経て、現在は株式会社アゴラ研究所所長。学術博士(慶應義塾大学)。著書に『アベノミクスの幻想』、『「空気」の構造』、共著に『なぜ世界は不況に陥ったのか』など。池田信夫blogのほか、言論サイトアゴラを主宰。

ニュース速報

ビジネス

予想物価上昇率を上方修正、2%目標達成時期は不変=

ワールド

韓国政府、北朝鮮参加で「平壌五輪」になるとの批判に

ワールド

第4四半期のフィリピンGDP、前年比+6.6% 予

ビジネス

中国、貧困・公害・リスクの縮小に重点=李首相

MAGAZINE

特集:科学技術大国 中国の野心

2018-1・30号(1/23発売)

豊富な資金力で先端科学をリードし始めた中国 独裁国家がテクノロジーを支配する世界

*雪による配送遅延について

グローバル人材を目指す

人気ランキング

  • 1

    ビットコイン暴落でネット上に自殺防止ホットライン

  • 2

    シリアで流行した皮膚が溶ける「奇病」のワクチン開発に光が!?

  • 3

    インドの女子大生がレイプ防止パンティを開発

  • 4

    「骨タイプのおやつ」で死亡する犬が急増 米政府機…

  • 5

    暴落を予言?バフェットが仮想通貨に冷や水を浴びせ…

  • 6

    「クラスで一番の美人は金正恩の性奴隷になった」

  • 7

    ビットコインに未来はない、主犯なき投資詐欺だ

  • 8

    欧州初、ドイツで寄生虫の卵のサプリメントが合法的…

  • 9

    サーモンを愛する「寿司男」から1.7mのサナダムシ発見

  • 10

    応急処置で肺に針を 北朝鮮亡命兵士、救出から6時間…

  • 1

    ビットコイン暴落でネット上に自殺防止ホットライン

  • 2

    日本の2社しか作れない、世界の航空業界を左右する新素材

  • 3

    「クラスで一番の美人は金正恩の性奴隷になった」

  • 4

    ビットコインや株は大暴落か 2018年ブラックスワン…

  • 5

    暴落を予言?バフェットが仮想通貨に冷や水を浴びせ…

  • 6

    子ども13人を劣悪な環境で監禁拷問した両親を逮捕 …

  • 7

    シリアで流行した皮膚が溶ける「奇病」のワクチン開…

  • 8

    インドの女子大生がレイプ防止パンティを開発

  • 9

    ウディ・アレン「小児性愛」疑惑を実の息子が告発

  • 10

    ダイアナが泣きついても女王は助けなかった 没後20…

  • 1

    北朝鮮による電磁パルス攻撃の現実味

  • 2

    [動画]クジラがサメの襲撃から人間を救った

  • 3

    決断が日本より早い中国、でも「プチ大躍進」が悲劇を生んでいる

  • 4

    ビットコインや株は大暴落か 2018年ブラックスワン…

  • 5

    ビットコインに未来はない、主犯なき投資詐欺だ

  • 6

    金正恩がアメリカを憎悪するもっともな理由

  • 7

    韓国大統領が中国で受けた、名ばかりの「国賓待遇」

  • 8

    南北会談で油断するな「アメリカは手遅れになる前に…

  • 9

    ビットコイン調整の陰で急騰する仮想通貨「リップル…

  • 10

    iPhoneXは期待外れ

日本再発見 シーズン2
デジタル/プリントメディア広告セールス部員募集
定期購読
期間限定、アップルNewsstandで30日間の無料トライアル実施中!
メールマガジン登録
売り切れのないDigital版はこちら

MOOK

ニューズウィーク日本版 特別編集

最新版 アルツハイマー入門

絶賛発売中!